パステルが歩けばヤツに当たる。 |
2010/04/29 カテゴリー/誕生日企画
「パステル。不意打ち狙いでいくぞ!」
「うん!」
ダンジョンの奥から何者かがこっちへ向かってくる。
オルスライムかも知れないし、違うかも知れない。
どっちにしても、相手がモンスターなら先手必勝。
私はトラップと一緒にカンテラを吹き消し、真っ暗闇の中、岩陰に隠れて待ち伏せる事にした。
ズズズズズ・・・・
不気味な音と一緒に、真っ暗なダンジョンの奥からほんの少し、明かりが漏れてくる。
明かりは左右にユラリユラリと揺れながら、着実にこちらへと向かっている。
しかし、まだ私たちの所にその明かりは届かない。
隣にいるのがトラップだとわかるものは何もない。
ただ、そこに息遣いがあって、トラップの匂いがするだけ。
時々お互いの体が触れ合って、なんとなくの距離を保つ事が出来る。
それくらいの真っ暗闇。
一人でこんな事は絶対出来ないけど、肌に感じるトラップの体温に安心する。
なんだろう・・・。
背中に感じるトラップの存在感が暗闇の中、すごく大きく感じられた。
そのまま、もたれかかってしまいそうになるくらいの安心感。
でも今そんなことをしたら、トラップに怒られるのは間違いない。
私は必死に理性を働かせて、思い留まる。
(人なのかも・・・。)
(だったらいいけどな。もう少し様子を見るぞ。)
ダンジョンの壁に照らされた明かりはカンテラの明かりの様だけど、もしかしたら冒険者から奪ったカンテラを持ったモンスターかも知れないわけで。
(スライムじゃなさそうだな。)
トラップがそう静かに呟いた時。
ズズズズズ・・・
と言う音と共に、
「うぐぎぎぎぃぃ・・・!」
と、不気味なうめき声が聞こえてきた!
荒い息を吐いて、呻きながらやって来る何か。
それはとても、友好的な種族だとは思えない!
(トラップ・・・!!)
(ばかっ!黙ってろ!)
モンスターがこっちに近づくに連れ、ダンジョンの中が少しずつ明るくなり、私たちの視界も回復してくる。
視界が見えるようになって一番に目に飛び込んできたのは、思っていたよりも近くにいたトラップの真剣な顔だった。
(・・・いいか、ヤツが目の前に来たらその油をかけろ!俺が火をつける。これだけでもかなりのダメージになるだろうしな。)
(うん。わかった!)
油がたっぷり入った容器の蓋を開けて、しっかりと握り締める。
ズズズズズ・・・ズズズズズズ!
この音は一体何なんだろう?
何かを引きずっているような音だ。
そして異様な呻き声。
「うがぁああああ・・・!」
(パステル!ショートソード貸せ!)
(う、うん!)
トラップにショートソードを渡した瞬間。
明かりと共にモンスターの影が浮かび上がった。
二足歩行でのっそのっそとバランス悪く歩いてくるモンスター・・・。
ズズズズズ!
ズズズズズッ!
ついに、目の前にモンスターの足が見えた!
「今だ!行けっ!」
トラップの号令と同時に前へ飛び出す!
トラップはショートソードを構え、私は油をモンスター目掛けてかける!
突然岩陰から現れた私たちに驚いて、モンスターは大パニック!
「うわぁぁぁぁああぁっ!!」
と、持っていたカンテラを放り投げた。
・・・・・って!!
「「ああっー!!??」」
トラップと私の絶叫がダンジョン中に響き渡る。
「あなたっ!?」
「おめぇっ!!」
「お、お、お前らぁ~!!」
「「「何でこんな所にいるんだ(の)っ!!??」」」
何故かモンスターとハモッてしまった私たち。
「アクス・・・!!」
いいかげん、もう名前も覚えてしまった。
何故か行く先々で、こうして出遭ってしまう私たち。
いつも彼が一方的に喚いて何処かへ行ってしまうんだけど・・・・。
今日は逃げなかった。
と言うか、逃げられなかった。
なぜならアクスったら、私たちの突然の登場に驚きすぎて、腰を抜かしてしまったらしい。
腰を抜かしたお陰で、油がアクスにかかる事も無かったんだけどね。
「く、くっそう・・・!俺を驚かして何をするつもりなんだよっ!ビビッたじゃねぇーかっ!
い、いやっ!お前らなんかにビビッてたまるかっ!ビビッてなんかねぇーぞっ!!」
そう言うと、アクスは全身の毛をブワッと逆立てて、・・・ま、彼なりの威嚇?のようだった。
そんな彼を見て、トラップはショートソードを私に返し、私も油に蓋をした。
威勢のいいセリフだけど、未だに彼は地面に座り込んだままだったしね。
取りあえず敵じゃないし、なぜこんな所に居たのか、聞いてみたくなった。
「ね、アクス。驚かしちゃってごめんなさい。それよりも、どうしてこんなダンジョンの中にいるの?」
アクスの前に腰を下ろして、素直に謝った。
私の横にトラップもドカリ!と腰を下ろす。
「まったくだぜ!お陰でいらねぇ緊張しちまったじゃねぇかっ!」
文句は言ってるけど、トラップは面白いおもちゃを見つけたって顔してる。
ま、つまり彼は楽しんでるんだな。この状況を。
「うるせぇー!俺だってな、こんな所で呑気に話してる暇なんてねぇんだよっ!」
威勢の良さはさっきから変らないけど・・・なんだろう?
いつもより元気無い?
よく見れば、舌を出して「ハァ・・・!ハァ・・・!」と荒い息だし、いつもピン!っと立ってるはずの耳が、今日は元気なく垂れてる。
どうしたんだろう、凄く疲れてるみたい。
「アクス、良かったお水、飲む?」
そう言って私がリュックから水筒を取り出すと、突然アクスの瞳が輝きだした。
「く、くださいーっ!!」
ゴクゴクと水を飲み干したアクスは、
「す、すみませんが、もう一杯いただけますか?」
と素直におかわりまでした。
うーん。
やっぱり彼って悪いモンスターじゃないのよねー。
なんて言うか、『憎めないヤツ』なのだ。
お水を飲んで落ち着いた彼は、なぜこんなダンジョンの中にいたのか理由を話してくれた。
そして、あの謎の「ズズズズズ・・・!」の音の正体を見せてくれたのだ!
なんとあの引きずった様な音は、ひと抱えもある大きな赤い鉱石!!
何度もここに足を運んでる私たちだって、見たことも無いくらいの大きな鉱石だった。
そう!
実は彼も私たちと同じで、この赤い鉱石を目当てにこのダンジョンに入ったんだって。
そこで偶然見つけた大きな鉱石。
沢山持って帰ればそれだけ、たくさんのお金が貰えるって事で。
頑張ってダンジョンの奥からここまで一人で(一匹?)、ズルズルと引きずって来たんだけど・・・。
すんごく重いらしい。
なるほど!
これでさっきの謎が解けた!
あの変な呻き声は、アクスの重たーい鉱石を引きずってる声だったんだね!
「へぇー!おめぇ以外に根性あんだなぁ!いやっ!見直したぜっ!」
トラップったらアクスの肩をバシバシと叩きながら、いきなり褒めだした。
「出遭った時から、他のビシャスとは何か違うと思ってたんだよな!なんつーか、こう・・・ビシャスの中のビシャス!って感じだもんなっ!おめぇ!」
「そ、そうか・・・?」
そう言ったアクスの顔は青紫とピンクのストライプに変っていた。
彼もトラップに褒められて、満更でもなさそうだ。
でも、私は知ってる。
トラップが理由も無く他人を褒めることなんて、絶対に無い事を。
つまり彼は何かを企んでる訳で・・・。
ま。
なんとなく想像は付くけどね。
「おうっ!んでよぉ。おめぇを、ビシャスの中のビシャスだと認めた上で頼みがあんだわ。」
ほら、きた!
ぜぇーったい、断られるに決まってるのに!
「なんだ?俺に出来る事なら聞いてやってもいいぞ。」
人のいい(モンスターのいい?)アクスったら、身を乗り出してトラップの話を聞き入っている。
「俺、実は今日、誕生日なんだわ。だからここでおめぇと逢えたのも、何かの縁だと思ってる。その赤い鉱石、俺の誕生日プレゼントにくれねぇか?」
やっぱりぃいいぃー!!
絶対そう来ると思った!!
「そ、それは無理だ!」
だよね。
アクスは、「とんでもない!」と首を横に振った。
ここまで頑張って引きずってきたのに、こんな所で横取りされたら堪んないよぉ!
でも、トラップが引き下がるはずも無く。
「もちろん!タダでとは言わねぇ!実は前におめぇが置いて行った、ガトレアダケがあっただろう?」
あ。
そうだった。パメラ・クイーンに買い取ってもらった代金を彼に返すって話だったよね。
あれ?
あの時、パメラはいくらで買い取ってくれたんだっけ?
「あれよぉー。なんと!1万ゴールドで売れたんだぞっ!」
「な、なんだとぉー!?あんなきのこが、い、い、1万ゴールドォォォ!!??」
アクスったら一気に興奮して、毛という毛が一気に逆立った。
「そ!その1万ゴールド。元はおめぇが苦労して取ってきたやつだろ?だから、1万ゴールド、そっくりそのままおめぇにやる。その代わりにこの鉱石、おめぇ一人で街まで運ぶの大変だろ?だから俺が引き取ってやるよ。」
そう言ってトラップは私に1万ゴールド渡してやれ。と言った。
丁度持っていたお金をアクスに渡すと、
「わぁっーた!俺は金が欲しかっただけだからな!この鉱石、おめえらにくれてやるよっ!」
そう言ったのだ!
うそっ!?
本当にいいの?
「っかぁー!!さすがアクス様!おめぇのその懐のデカさ!みんなに広めといてやるよ!」
そして、すかさずこう言った。
「頼みついでに、もう一個いいか?」
「おうっ!何でも言ってくれ!」
思わぬ現金が手に入って、上機嫌のアクス。
「俺とコイツ(私の事ね。)だけじゃ、コレだけの鉱石、さすがに街まで運べねぇ。だから、街までちょっと運ぶのを手伝ってくれねぇか?もちろん、お礼に食事でも奢るしさっ!」
トラップにしては珍しすぎるくらいの気前の良さだ。
「おう!いいぞ!」
そして、本当にモンスターのいいアクス。
その後、街まで3人でえっちら、おっちら。
一緒にご飯を食べてなんと、トラップの誕生日も一緒に祝ってくれた。
夜もふけた頃、彼はひとりご機嫌にズールの森へと帰って行った。
いつも風の様に通り過ぎていくだけのアクスと、こんなにも長い時間一緒に過ごすのは初めてで。
改めて、憎めないキャラだなぁっと思った。
ふふふ!
今回の冒険で、彼とお友達になれたのかな?
次逢った時には、逃げずに話が出来るといいな。
そう思いながら、ふと。忘れかけていた事を思い出した。
「ねぇ。トラップ。あのガトレアダケ、パメラ・クィーンはいくらで買い取ってくれたんだっけ?」
どうしてもそれだけが思い出せなかったんだよね。
私がそう聞くと、トラップはニヤリと笑って答えた。
「5万ゴールド!」
あぁああっっぁぁ!
そうだよ!
何で忘れてたんだろう!!
トラップッたらあの時、きのこ一個に5千ゴールドも吹っかけたんだった!!
「って事は!アクスにあと4万ゴールド渡すべきだったんじゃないのっ!?」
「いいーんだよっ!あいつ、1万ゴールドで喜んでたじゃねぇか。5万ゴールドも渡しても毒なの!毒!」
トラップの交渉の上手さには、ほとほと驚かされる。
ま!アクスにはまた逢えるだろうしね!
その時彼が逃げずにいてくれたら、残りの4万ゴールドも返してあげようっと!
そう、心に決めて再び猪鹿亭で2人だけの誕生日パーティを開いた。
バタバタした冒険だったけど、終わりよければすべて良しっ!
無事に誕生日をお祝い出来たしね!
トラップ!誕生日、おめでとっ!
後日、アクスと一緒に運んだあの赤い鉱石に4万ゴールドの値が付いた事。
・・・・アクスには黙っておくべき?
END
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「うん!」
ダンジョンの奥から何者かがこっちへ向かってくる。
オルスライムかも知れないし、違うかも知れない。
どっちにしても、相手がモンスターなら先手必勝。
私はトラップと一緒にカンテラを吹き消し、真っ暗闇の中、岩陰に隠れて待ち伏せる事にした。
ズズズズズ・・・・
不気味な音と一緒に、真っ暗なダンジョンの奥からほんの少し、明かりが漏れてくる。
明かりは左右にユラリユラリと揺れながら、着実にこちらへと向かっている。
しかし、まだ私たちの所にその明かりは届かない。
隣にいるのがトラップだとわかるものは何もない。
ただ、そこに息遣いがあって、トラップの匂いがするだけ。
時々お互いの体が触れ合って、なんとなくの距離を保つ事が出来る。
それくらいの真っ暗闇。
一人でこんな事は絶対出来ないけど、肌に感じるトラップの体温に安心する。
なんだろう・・・。
背中に感じるトラップの存在感が暗闇の中、すごく大きく感じられた。
そのまま、もたれかかってしまいそうになるくらいの安心感。
でも今そんなことをしたら、トラップに怒られるのは間違いない。
私は必死に理性を働かせて、思い留まる。
(人なのかも・・・。)
(だったらいいけどな。もう少し様子を見るぞ。)
ダンジョンの壁に照らされた明かりはカンテラの明かりの様だけど、もしかしたら冒険者から奪ったカンテラを持ったモンスターかも知れないわけで。
(スライムじゃなさそうだな。)
トラップがそう静かに呟いた時。
ズズズズズ・・・
と言う音と共に、
「うぐぎぎぎぃぃ・・・!」
と、不気味なうめき声が聞こえてきた!
荒い息を吐いて、呻きながらやって来る何か。
それはとても、友好的な種族だとは思えない!
(トラップ・・・!!)
(ばかっ!黙ってろ!)
モンスターがこっちに近づくに連れ、ダンジョンの中が少しずつ明るくなり、私たちの視界も回復してくる。
視界が見えるようになって一番に目に飛び込んできたのは、思っていたよりも近くにいたトラップの真剣な顔だった。
(・・・いいか、ヤツが目の前に来たらその油をかけろ!俺が火をつける。これだけでもかなりのダメージになるだろうしな。)
(うん。わかった!)
油がたっぷり入った容器の蓋を開けて、しっかりと握り締める。
ズズズズズ・・・ズズズズズズ!
この音は一体何なんだろう?
何かを引きずっているような音だ。
そして異様な呻き声。
「うがぁああああ・・・!」
(パステル!ショートソード貸せ!)
(う、うん!)
トラップにショートソードを渡した瞬間。
明かりと共にモンスターの影が浮かび上がった。
二足歩行でのっそのっそとバランス悪く歩いてくるモンスター・・・。
ズズズズズ!
ズズズズズッ!
ついに、目の前にモンスターの足が見えた!
「今だ!行けっ!」
トラップの号令と同時に前へ飛び出す!
トラップはショートソードを構え、私は油をモンスター目掛けてかける!
突然岩陰から現れた私たちに驚いて、モンスターは大パニック!
「うわぁぁぁぁああぁっ!!」
と、持っていたカンテラを放り投げた。
・・・・・って!!
「「ああっー!!??」」
トラップと私の絶叫がダンジョン中に響き渡る。
「あなたっ!?」
「おめぇっ!!」
「お、お、お前らぁ~!!」
「「「何でこんな所にいるんだ(の)っ!!??」」」
何故かモンスターとハモッてしまった私たち。
「アクス・・・!!」
いいかげん、もう名前も覚えてしまった。
何故か行く先々で、こうして出遭ってしまう私たち。
いつも彼が一方的に喚いて何処かへ行ってしまうんだけど・・・・。
今日は逃げなかった。
と言うか、逃げられなかった。
なぜならアクスったら、私たちの突然の登場に驚きすぎて、腰を抜かしてしまったらしい。
腰を抜かしたお陰で、油がアクスにかかる事も無かったんだけどね。
「く、くっそう・・・!俺を驚かして何をするつもりなんだよっ!ビビッたじゃねぇーかっ!
い、いやっ!お前らなんかにビビッてたまるかっ!ビビッてなんかねぇーぞっ!!」
そう言うと、アクスは全身の毛をブワッと逆立てて、・・・ま、彼なりの威嚇?のようだった。
そんな彼を見て、トラップはショートソードを私に返し、私も油に蓋をした。
威勢のいいセリフだけど、未だに彼は地面に座り込んだままだったしね。
取りあえず敵じゃないし、なぜこんな所に居たのか、聞いてみたくなった。
「ね、アクス。驚かしちゃってごめんなさい。それよりも、どうしてこんなダンジョンの中にいるの?」
アクスの前に腰を下ろして、素直に謝った。
私の横にトラップもドカリ!と腰を下ろす。
「まったくだぜ!お陰でいらねぇ緊張しちまったじゃねぇかっ!」
文句は言ってるけど、トラップは面白いおもちゃを見つけたって顔してる。
ま、つまり彼は楽しんでるんだな。この状況を。
「うるせぇー!俺だってな、こんな所で呑気に話してる暇なんてねぇんだよっ!」
威勢の良さはさっきから変らないけど・・・なんだろう?
いつもより元気無い?
よく見れば、舌を出して「ハァ・・・!ハァ・・・!」と荒い息だし、いつもピン!っと立ってるはずの耳が、今日は元気なく垂れてる。
どうしたんだろう、凄く疲れてるみたい。
「アクス、良かったお水、飲む?」
そう言って私がリュックから水筒を取り出すと、突然アクスの瞳が輝きだした。
「く、くださいーっ!!」
ゴクゴクと水を飲み干したアクスは、
「す、すみませんが、もう一杯いただけますか?」
と素直におかわりまでした。
うーん。
やっぱり彼って悪いモンスターじゃないのよねー。
なんて言うか、『憎めないヤツ』なのだ。
お水を飲んで落ち着いた彼は、なぜこんなダンジョンの中にいたのか理由を話してくれた。
そして、あの謎の「ズズズズズ・・・!」の音の正体を見せてくれたのだ!
なんとあの引きずった様な音は、ひと抱えもある大きな赤い鉱石!!
何度もここに足を運んでる私たちだって、見たことも無いくらいの大きな鉱石だった。
そう!
実は彼も私たちと同じで、この赤い鉱石を目当てにこのダンジョンに入ったんだって。
そこで偶然見つけた大きな鉱石。
沢山持って帰ればそれだけ、たくさんのお金が貰えるって事で。
頑張ってダンジョンの奥からここまで一人で(一匹?)、ズルズルと引きずって来たんだけど・・・。
すんごく重いらしい。
なるほど!
これでさっきの謎が解けた!
あの変な呻き声は、アクスの重たーい鉱石を引きずってる声だったんだね!
「へぇー!おめぇ以外に根性あんだなぁ!いやっ!見直したぜっ!」
トラップったらアクスの肩をバシバシと叩きながら、いきなり褒めだした。
「出遭った時から、他のビシャスとは何か違うと思ってたんだよな!なんつーか、こう・・・ビシャスの中のビシャス!って感じだもんなっ!おめぇ!」
「そ、そうか・・・?」
そう言ったアクスの顔は青紫とピンクのストライプに変っていた。
彼もトラップに褒められて、満更でもなさそうだ。
でも、私は知ってる。
トラップが理由も無く他人を褒めることなんて、絶対に無い事を。
つまり彼は何かを企んでる訳で・・・。
ま。
なんとなく想像は付くけどね。
「おうっ!んでよぉ。おめぇを、ビシャスの中のビシャスだと認めた上で頼みがあんだわ。」
ほら、きた!
ぜぇーったい、断られるに決まってるのに!
「なんだ?俺に出来る事なら聞いてやってもいいぞ。」
人のいい(モンスターのいい?)アクスったら、身を乗り出してトラップの話を聞き入っている。
「俺、実は今日、誕生日なんだわ。だからここでおめぇと逢えたのも、何かの縁だと思ってる。その赤い鉱石、俺の誕生日プレゼントにくれねぇか?」
やっぱりぃいいぃー!!
絶対そう来ると思った!!
「そ、それは無理だ!」
だよね。
アクスは、「とんでもない!」と首を横に振った。
ここまで頑張って引きずってきたのに、こんな所で横取りされたら堪んないよぉ!
でも、トラップが引き下がるはずも無く。
「もちろん!タダでとは言わねぇ!実は前におめぇが置いて行った、ガトレアダケがあっただろう?」
あ。
そうだった。パメラ・クイーンに買い取ってもらった代金を彼に返すって話だったよね。
あれ?
あの時、パメラはいくらで買い取ってくれたんだっけ?
「あれよぉー。なんと!1万ゴールドで売れたんだぞっ!」
「な、なんだとぉー!?あんなきのこが、い、い、1万ゴールドォォォ!!??」
アクスったら一気に興奮して、毛という毛が一気に逆立った。
「そ!その1万ゴールド。元はおめぇが苦労して取ってきたやつだろ?だから、1万ゴールド、そっくりそのままおめぇにやる。その代わりにこの鉱石、おめぇ一人で街まで運ぶの大変だろ?だから俺が引き取ってやるよ。」
そう言ってトラップは私に1万ゴールド渡してやれ。と言った。
丁度持っていたお金をアクスに渡すと、
「わぁっーた!俺は金が欲しかっただけだからな!この鉱石、おめえらにくれてやるよっ!」
そう言ったのだ!
うそっ!?
本当にいいの?
「っかぁー!!さすがアクス様!おめぇのその懐のデカさ!みんなに広めといてやるよ!」
そして、すかさずこう言った。
「頼みついでに、もう一個いいか?」
「おうっ!何でも言ってくれ!」
思わぬ現金が手に入って、上機嫌のアクス。
「俺とコイツ(私の事ね。)だけじゃ、コレだけの鉱石、さすがに街まで運べねぇ。だから、街までちょっと運ぶのを手伝ってくれねぇか?もちろん、お礼に食事でも奢るしさっ!」
トラップにしては珍しすぎるくらいの気前の良さだ。
「おう!いいぞ!」
そして、本当にモンスターのいいアクス。
その後、街まで3人でえっちら、おっちら。
一緒にご飯を食べてなんと、トラップの誕生日も一緒に祝ってくれた。
夜もふけた頃、彼はひとりご機嫌にズールの森へと帰って行った。
いつも風の様に通り過ぎていくだけのアクスと、こんなにも長い時間一緒に過ごすのは初めてで。
改めて、憎めないキャラだなぁっと思った。
ふふふ!
今回の冒険で、彼とお友達になれたのかな?
次逢った時には、逃げずに話が出来るといいな。
そう思いながら、ふと。忘れかけていた事を思い出した。
「ねぇ。トラップ。あのガトレアダケ、パメラ・クィーンはいくらで買い取ってくれたんだっけ?」
どうしてもそれだけが思い出せなかったんだよね。
私がそう聞くと、トラップはニヤリと笑って答えた。
「5万ゴールド!」
あぁああっっぁぁ!
そうだよ!
何で忘れてたんだろう!!
トラップッたらあの時、きのこ一個に5千ゴールドも吹っかけたんだった!!
「って事は!アクスにあと4万ゴールド渡すべきだったんじゃないのっ!?」
「いいーんだよっ!あいつ、1万ゴールドで喜んでたじゃねぇか。5万ゴールドも渡しても毒なの!毒!」
トラップの交渉の上手さには、ほとほと驚かされる。
ま!アクスにはまた逢えるだろうしね!
その時彼が逃げずにいてくれたら、残りの4万ゴールドも返してあげようっと!
そう、心に決めて再び猪鹿亭で2人だけの誕生日パーティを開いた。
バタバタした冒険だったけど、終わりよければすべて良しっ!
無事に誕生日をお祝い出来たしね!
トラップ!誕生日、おめでとっ!
後日、アクスと一緒に運んだあの赤い鉱石に4万ゴールドの値が付いた事。
・・・・アクスには黙っておくべき?
END
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